歯科衛生士ブログ
「ことば」と「口」の深い関係
おしゃべりが止まらない時、「お口にチャック!」なんて言ったりしますよね。
多くの方は、お話をする際には口を使っています。
でも、ただ「あー」とか「うー」では、相手に言いたいことが伝わりません。
私たちは無意識のうちに、口で発する「音」を、相手にも伝わる「ことば」に変えているのです。
ことばが口から出てくるまで
ふだん、あまり考えることはないかもしれませんが、人がお話をするには、いくつかのステップがあります。
まず、頭の中で伝えたい、言いたい内容に合う単語を選択します(例:私、食べる、リンゴ、いま)。
次に、文法どおりに並べます(私はリンゴをいま食べたい)。
そして、このことばを音声に変換する作業に進みます。
こういった作業を、私たちは頭の中で無意識にやっている、わけです。
ことばを話すためには、音を作り出す口唇・舌や下あごなどの器官に、脳から指令を送ります。
指令を受けると、私たちの身体は肺から息を出し、のどぼとけにある声帯(せいたい)をふるわせて声を作り、最後に舌の形を変えたり、口を動かすことで、思い通りのことば(=音)を作ります。
この音を作る過程を「構音(発音)」と呼びます。
でも、音を作る器官やその動きに問題があって発音がうまくできない状態を「構音障害」と言います。
構音障害の原因はいくつかあります。
一つ目は病気やけがのために、音を作る時に使う器官が欠損したり、形が異常なために適切な音が出せないケース。
二つ目に、思い通りに舌や口を動かせず、発音に支障をきたすケース。これは脳卒中やパーキンソン病など、発音に関わる動きをコントロールする神経の病気が原因で起こることが多いようです。
しかし、上記のような明らかな原因が見つからないというケースもあります。
こうした構音障害の治療は、「言語聴覚士」(げんごちょうかくし)というお仕事の方が担当することがほとんど。
しかし、障害によっては歯医者さんが発音を補う装置を作ったり、手術を行うといったこともあります。
当たり前のようですが、「ことば」と「口」って、深い関係があるんですね。
認知症と口腔ケア
近年、「口腔環境」、言い換えると「口の中の状態」が認知症の発症に大きく影響しているのではないか、とする研究が発表され、話題になっています。
人は年齢を重ねるにつれて、身体のあらゆる機能が衰えていきます。口腔についてもそれは同様で、高齢者の方は次のような課題を抱えがちである、と言われます。
高齢者が持つ口腔内の課題
・口腔自体が持つ「清潔に保とうとする力」が低下
口腔には本来、「清潔に保とうとする力」があります。
唾液の力で歯の表面や舌、粘膜などについた汚れや細菌を洗い流すのです。
しかし、高齢になると唾液の分泌量が減少し、「清潔に保とうとする力」が低下する傾向にあります。
・虫歯や歯周病が多い
加齢によって歯茎が下がり、歯の根元があらわになることで、そこから虫歯が発生しやすくなります。
口腔自体の「清潔に保とうとする力」が弱まり、唾液の分泌が減ることで、洗い流されるはずの細菌が増殖、歯周病にもかかりやすい状態にあるとも言えます。
・治療跡や入れ歯が多い
高齢者の方は長く生きている分、虫歯や歯周病にかかった経験も多いケースがあり、そのため詰め物などの治療跡が残っている方も少なくありません。
詰め物をしている場合は、その下で虫歯が進行していることも多いですし、入れ歯を使用している方の場合、入れ歯と歯茎の間で細菌が増殖しやすくなったりもします。
3つの可能性が指摘されています。
1つ目は「咀嚼回数の低下」。
咀嚼回数が低下すると脳の認知機能への刺激が少なくなり、結果として認知機能の低下が起こり、認知症を発症しやすくなるのではないか?という意見があります。
2つ目に「食べられるものが偏る」という問題もあります。
歯がないと、食べられるものに偏りが出ます。その結果、ビタミン類の摂取が不足し、その結果認知症を発症しやすくなるのでは、と言われています。
3つ目に「歯周病」が挙げられます。
歯を失うということは、歯茎がむき出しの状態にあるということ。
そして歯周病を患い、慢性的な炎症を起こし、血液を介して脳に悪影響を及ぼしているという説もあります。
また、歯を失う、認知症を発症するリスクが最大で1.9倍になる可能性があるという研究結果が発表されました。
だからこそ、よく噛んで、バランスよく食べること。
そして、それができる口腔環境をキープすること。
それこそが、認知症予防にも効果的。口腔環境を清潔にすることと、口腔の機能を保てるようにすることの2点に意識して、お口から健康に長生きできる身体を目指していきましょう。
歯周病と糖尿病と睡眠不足
睡眠不足と歯周病が、実は関係している・・・なんて話、信じられるでしょうか。
歯周病は、歯と歯肉の間にたまった細菌の影響で、歯肉に炎症を起こしてしまう病気。
そして、この歯周病は糖尿病との関係も深いと言われています。
糖尿病になると歯周病の進行が早くなる、また、歯周病があると糖尿病を発症しやすくなったり、進行が早まることがあるそうなのです。
そして、糖尿病は睡眠とも深いかかわりがあります。
睡眠時間が短くなると、食欲を抑えるホルモン、レプチンが減少。
反対に食欲を増やすホルモン、グレリンが増加し、食事の量が増えます。
また、睡眠時間が短いと、インスリンの働きを抑えるホルモンが増えるため、インスリンの効きが悪くなり、血糖値が上昇します。
つまり、睡眠不足になると糖尿病に悪影響を及ぼす、と同時に、糖尿病とかかわりの深い歯周病も悪化させてしまう可能性があるということです。
睡眠時間をきちんと確保し、起床してすぐに太陽の光を浴びて体内時計をリセットするなど、質のいい睡眠を確保することも重要です。
スポーツと「⻭」の意外な関係
スポーツ選手も「⻭が命」
世界のホームラン王、王貞治さんは、現役を引退する頃には奥⻭がボロボロだった・・・という有名なお話があります。
これは、ボールを打つ時に奥⻭をグッと噛み締めていたから。
ちなみに、フィギュアスケートの浅田真央さんも、以前インタビューで「ジャンプのときに奥⻭を噛みしめるため、⻭が欠けることがある」と答えていたことがあるそうです。
頑丈な⻭があるから、一流になれる
時速150キロのボールを打ったり、フィギュアスケートでジャンプする時、アスリートたちの奥⻭には数100グラム〜1トンもの負荷(ふか)がかかるのだとか。
人は奥⻭をグッと噛み締めることで、重心が安定し、体がスムーズに動くようになります。
そのため、一流アスリートたちの⻭はボロボロになるわけです。
ちなみに、メジャーリーグでも活躍したイチローさんは、1日に5回⻭を磨いて、良い状態を保つようにケアしていたそうですよ。
嚙み合わせが成績を左右する!?
また、スポーツでトップを目指す子どもたちは、早いうちから⻭列矯正をしてかみ合わせをよくするのだそうです。
なぜなら、噛み合わせが悪いと、脳や顎への刺激が正しく伝わらないから。
トップアスリートはもちろん、私たちが日常生活を送る上でも、⻭並びや噛み合わせが悪いと、仕事や勉強に集中できない・・・ということが起こってしまうのです。
⻭は、アスリートが実力を発揮するために欠かせない要素。
皆さんも、噛み合わせを改善してもっといいパフォーマンスを発揮してみませんか?
舌磨きについて
皆さん毎日欠かさず「⻭磨き」はしていますよね。
では、「舌磨き」はどうでしょう?
「えーっ?舌なんて磨いたことないよ〜」という方も、中にはいるかもしれませんね。
でも、舌もきれいにしておいた方が、実は何かと良いんです。
舌もきれいにして、大切に!
舌の表面には、皆さんもご存じの通り「味蕾(みらい)」と呼ばれる、味覚を感じるセンサーがあります。
また、食べ物を嚙むとき、舌は食べ物を⻭と⻭の間に移動させたり、⻭で噛み砕く際には食べ物を固定したり、さらにはかみ砕いた食べ物を集め、反対側の⻭に移動させて、再度噛んだりします。そして、飲みこめるくらいに細かくなったら、舌はかみ砕いた食べ物を集めてのど、食道に送ります。かみ砕いた食べ物と唾液(だえき)を混ぜ合わせ、飲みこみやすくするのも舌の役割です。さらに、言葉を発するときにも動いて、様々な音を出すためのお手伝いをしています。
舌磨きをすることのメリット
食べたり飲んだりすることで⻭が汚れるのと同じように、舌にも汚れが付きます。白や⻩色、ときには黑っぽい苔(こけ)のようなものを「舌苔(ぜったい)」と呼びます。凹凸がある舌の表面には、はがれた粘膜や食べ物のカスなどがつきやすく、さまざまな細菌が増殖して「舌苔(ぜったい)」になるのです。舌を磨いて、舌苔を取り除くことで、こんな効果があると言われています。
口臭を防ぐ
口臭の主な原因は舌苔だと言われます。舌磨きで舌苔を取り除くことで、口臭予防につながるのです。
味覚を正常に戻す
舌苔が蓄積すると、味を感じにくくなってしまいます。舌をきれいにすると、本来の味覚を取り戻すことができます!
病気を予防する
舌苔の蓄積によってさまざまな細菌が増殖すると、虫⻭や⻭周病、口内炎などの原因になります。舌磨きで舌苔を取り除き、細菌の増殖を抑えることは、インフルエンザや風邪などの感染症対策にもつながるのです。
舌磨きの方法
鏡を見ながら舌を前に突き出して、舌の後方に舌苔がついていないか確認します。
Step2
舌ブラシを鏡で見える最も奥に軽くあて、手前に引いてください。決して力を入れ過ぎないように!汚れが取れたら舌ブラシの先を水道の水でよく洗います。Step1→Step2を何度も繰り返しながら、舌を磨いていきます。
舌磨きQ&Aコーナー
Q:何を使って磨けばいいの?専用のブラシが必要?
A:毛先の柔らかい小児用の⻭ブラシや、目の粗いタオルなどを使って舌を磨いてもOK。ただ、専用の舌ブラシを使うと、さらに効果的です。
Q:舌を磨く頻度やタイミングは?
A:起きた時、⻭を磨くついでに舌を磨けばOKです。それ以上舌磨きをすると、かえって舌の粘膜を傷つけてしまう恐れもあるので、要注意!!舌が汚れたままにしておくと、口臭の原因になってしまうだけではなく、虫⻭や⻭周病、口内炎などの原因になってしまうことも。正しい「舌磨き」を学んで、口の中を清潔に保ちましょう!
粘液のう胞について
いつの間にかできている口内炎、小さいのに痛くて嫌ですよね。
でも、たまに、ぷっくりふくれているのに痛みがない、そんなことはないでしょうか?
もしかするとそれは口内炎ではなく、粘液のう胞(ねんえきのうほう)かもしれません。
今回は、粘液のう胞についてお話します。
粘液のう胞とは
粘液のう胞とは、簡単に言うと、粘膜(ねんまく)の下に唾液(だえき)が溜まって袋状になったできもののことです。もう少し詳しく見ていきましょう。
唾液を分泌(ぶんぴつ)する唾液腺
唾液は、唾液腺という無数の管を通って口の中にでてきます。特に耳の下、顎の下、舌の下辺りに大きな唾液腺が集まっており、
「耳下腺」
「顎下腺」
「舌下腺」
と呼ばれます。これが3大唾液腺です。
また、小唾液腺という小さな唾液腺が口内全体に広がっています。粘液のう胞に関わるのは、この小唾液腺です。
詰まりの原因
唾液が詰まって粘液のう胞ができてしまうのは、多くの場合、唾液腺への傷が原因です。唾液腺が傷つくと、そこから唾液が漏れ出して行き場を失います。それが溜まって袋状になったものが、粘液のう胞なのです。
例えば、食事中に唇を噛んでしまったり、硬い食べ物が当たったりしたときに発生します。また、⻭ブラシによって傷つくこともよくあるので、⻭を磨くときの力の入れすぎにも注意が必要です。
症状
多くの場合、痛みはありませんぷくっとしたできものができます下唇や舌の裏にできやすいです(舌の先にできたものは、ブランディンヌーンのう胞と呼ばれます)
治療法
通常は破れたり、時間が経ったりすることで自然に治癒(ちゆ)します。いじってしまうと治りにくくなるかもしれないので、意識しすぎないようにしましょう。再発を繰り返すときは、手術により一部の唾液腺を取り除いてしまう場合もあります。
世界で一番広まっている病気は歯周病!?
ギネス世界記録に認定
「全世界で最も蔓延している病気は歯周病である。地球上を見渡してもこの病気に冒されていない人間は数えるほどしかいない。」
これは、ギネスブックに実際に記載されている文章です。
2001年、歯周病は全世界で最も蔓延(まんえん)している病気として、ギネス世界記録に認定されました。
30代以上の3人に2人が歯周病
ギネス世界記録に科学的な根拠があるとは限りませんが、少なくとも、多くの人が歯周病に冒(おか)されていることは事実です。
実際に、厚生労働省が実施した歯科疾患実態調査(平成23年)の結果、30代〜70代の3人に2人は、歯周組織に何かしらの異常があることがわかっています。
歯を失わないために
歯を失う原因の中で最も多いのが歯周病です。
多くの人が歯周病になってしまうことがわかりましたが、日頃から口内のメンテナンスを怠らず、できるだけ歯周病にかからないように、進行を遅らせるように気をつけましょう。